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外国人一家に対する在留特別許可に係る判例〔Ⅰ〕

1.事案の概要

 本件は、いずれもイラン・イスラム共和国の国籍を有し、在留期間を超過して日本における在留を続けることとなった夫(原告・被控訴人)、妻(原告・被控訴人)、長女(原告・被控訴人)、次女(原告・被控訴人)が、法務大臣(被告・控訴人)が当該夫妻らに対して行った出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)49条1項に基づく当該夫妻らの異議の申出には理由がない旨の各裁決(以下「本件各裁決」という。)及び主任審査官(被告・控訴人)が同日に行った各退去強制令書発付処分(以下「本件各退令発付処分」という。)はいずれも違法であるとして、その取消しを求めたものです。
 第1審東京地裁平成15年9月19日判決(判時1836号46頁)は、入管法49条3項に基づく異議に理由がないとの法務大臣の裁決に行政処分性を認めず、また、主任審査官の退去強制令書発付処分に係る裁量権を認めた上で、行政庁の内部的な裁量基準に定められた考慮要素を全く考慮せずに行った点で、裁量権の逸脱濫用があるとして退去強制令書発付処分を取り消しました。法務大臣らは控訴しました。
 東京高裁平成16年3月30日判決(『訟務月報51巻2号』511頁)は、入管法49条3項にある「裁決」に対する取消訴訟が提起可能であるとし、主任審査官の退去強制令書発付処分に係る裁量権を否定しました。そして、退去強制令書発付処分の原因となった入管法違反以外の法律違反がなく長期間平穏かつ公然と在留してきた当該イラン人家族(被控訴人)に対して、在留特別許可を与えるか否かを判断する際、このことを有利に考慮しなかったことが社会通念上著しく妥当性を欠くとはいえないとして、在留特別許可に係る法務大臣(控訴人)の判断が裁量権の範囲を逸脱濫用したものとはいえないと判示しました。こうして、控訴審判決は第1審判決を取り消し、被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却しました。

2.東京地裁平成15年9月19日判決(第1審)

◇裁決の処分性及び退去強制令書発付処分における主任審査官の裁量の存否
(1)入管法49条1項の異議の申出に対する裁決の処分性
①入管法49条3項・4項・5項の規定
 「法務大臣がその名において異議の申出をした当該容疑者に対し直接応答することは予定していない。……法49条3項の裁決は、その位置づけとしては退去強制手続を担当する行政機関内の内部的決裁行為と解するのが相当であって、行政庁への不服申立てに対する応答行為としての行政事件訴訟法3条3項の「裁決」には当たらない」。
②法の改正の経緯→内部的決裁行為
 出入国管理令、不法入国者等退去強制手続令5条~19条が当該容疑者に対し直接応答することを予定していない点
③「異議の申出」という用語を用いていること
 入管法49条1項の異議の申出は、「法務大臣が退去強制手続に関する監督権を発動することを促す途を拓いているものであるが、同異議の申出自体に対しては、被告の応答義務がないか、又は、応答義務があっても、形式的要件の不備を理由として不当に申出を排斥されることなく何らかの実体判断を受けることが保障されるだけでであり、申出人に手続上の権利ないし法的地位としての申請権ないし申立権が認められているものとは解されない……よって、法49条1項の異議の申出に対してされる法49条3項の『裁決』は、不服申立人にそうした手続的権利ないし地位があることを前提とする『審査請求、異議申立てその他の不服申立て』に対する行政庁の裁決、決定その他の行為には該当せず、行政事件訴訟法3条3項の裁決の取消の訴えの対象となるということはできない」。
④「異議の申出に理由がない旨の裁決がこうした手続上の権利ないし法的地位に変動を生じさせるものということはできず、同裁決が行政事件訴訟法3条2項の『処分』に当たるということもできない」。
⑤「法49条1項の異議の申出に対する法務大臣の裁決は内部的決裁行為というべきものであり、行政事件訴訟法3条1項にいう公権力の行使には該当しない」。
(2)退去強制令書発付処分における主任審査官の裁量
 「退去強制について実体規定である法24条の認める裁量は、具体的には、退去強制に関する上記手続規定を介して主任審査官に与えられ、その結果、主任審査官には、退去強制令書を発付するか否か(効果裁量)、発付するとしてこれをいつ発付するか(時の裁量)につき、裁量が認められている」。
(3)入管法49条3項の法務大臣の裁決と退去強制令書発付処分の取消訴訟について
 「法49条1項の異議の申出に対する裁決につきこの取消しを求める訴訟は、対象の処分性を欠く不適法なものといわざるを得ない」。
 「退去強制令書発付処分の取消等を求める訴訟において、退去強制事由の有無に加え、その裁量の逸脱濫用についても同処分の違法事由として主張し得る」。
(4)小括
 「本件訴えのうち、原告らが被告法務大臣がした本件各裁決の取消しを求める部分は対象の処分性を欠く不適法なものというべきである」。
 「以下の検討においては、被告主任審査官が被告法務大臣と同様の判断に基づいて本件各退令発付処分をしたものとの前提で行うこととする」。
◇本件各退令発付処分の違法性
(1)本件における主任審査官の裁量の適否
①判断のあり方―特に裁量基準との関係について
 「主任審査官が本件各退令発付処分に当たり、いかなる事項を重視すべきであり、いかなる事項を重視すべきでないかについては、本来法の趣旨に基づいて決すべきものであるが、外国人に有利に考慮すべき事項について、実務上、明示的又は黙示的に基準が設けられ、それに基づく運用がされているときは、平等原則の要請からして、特段の事情がない限り、その基準を無視することは許されないのであり、当該基準において当然考慮すべきものとされている事情を考慮せずにされた処分については、特段の事情がない限り、本来重視すべき事項を不当に軽視したものと評価せざるを得ない。被告らは、この点について、裁量権の本質が実務によって変更されるものではなく、原則として、当不当の問題が生じるにすぎないと主張し、過去の裁判例にもこれを一般論として説示するものが少なくないが(例えば、最高裁大法廷判決昭和53年10月4日民集32巻7号1231頁)、このような考え方は、行政裁量一般を規制する平等原則を無視するものであって採用できない」。
②長期間平穏に在留している事実の評価
 「適法な在留資格を持たない外国人が長期間平穏かつ公然と我が国に在留し、その間に素行に問題なくすでに善良な一市民として生活の基盤を築いていることが、当該外国人に在留特別許可を与える方向に考慮すべき第一の事由であることは、本件処分時までに黙示的にせよ実務上確立した基準であったと認められるのであり、本件処分は、これを無視したばかりか、むしろ逆の結論を導く事由として考慮しているのであって、そのような取扱いを正当化する特段の事情も見当たらず、しかも、それが原告らに最も有利な事由と考えられるのであるから、当然考慮すべき事由を考慮しなかったことにより、その判断が左右されたものと認めざるを得ない」。
③本国に帰国した場合の原告らの生活
 「原告らが本国に帰国した場合には、その生活には相当な困難が生ずると予測するのが通常人の常識にかなうものと認められる」。
④帰国による原告長女及び原告次女への影響
 「原告子ら、特に原告長女は、本件処分当時12才であり、その年齢まで一貫して我が国社会において男子と対等の生活を続けてきたのであるから、本国に帰国した際には、相当な精神的衝撃を受け、場合によっては生涯いやすことの困難な精神的苦痛を受けることもあり得ると考えるのが、通常人の常識にかなうものと認められる」。
⑤比例原則違反
 「退去強制令書の発付及びその執行がされた場合には、原告ら家族の生活は大きな変化が生じることが予想され、特に原告長女に生じる負担は想像を絶するものであり、これらに事態は、人道に反するものとの評価をすることも十分可能である」。
 「不法残留以外に何らの犯罪行為等をしていない原告ら家族につき、在留資格を与えたとしても、それにより生じる支障は、同種の事案について在留資格を付与せざるを得なくなること等、出入国管理全体という観点において生じる、いわば抽象的なものに限られ、原告ら家族の在留資格を認めることそのものにより具体的に生じる支障は認められない」。
 「原告ら家族が受ける著しい不利益との比較衡量において、本件処分により達成される利益は決して大きいものではないというべきであり、本件各退去強制令書発付処分は、比例原則に反した違法なものというべきである」。
 「本件に限ってみても外国人登録の際や小学校・中学校への入学など、原告らが公的機関と接触を持っている期間は多数あり、そのような場面での取締りが制度化しておらず、取締りが行われなかったことで長期化した在留について、その非をすべて原告に負わせるというのは無理がある」。
(2)小括
 本件各退令発付処分は、「既に確立した裁量基準において原告らに有利に考慮すべき最重要の事由とされている事項を、原告らに有利に考慮しないばかりか、逆に不利益に考慮して結論を導いている点において、裁量権の逸脱又は濫用するものであるし、……これを取り消すべきものとするほかない」。
◇結論
 「原告らの被告法務大臣に対する訴えは不適法であるからこれを却下することとし、原告らの被告主任審査官に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容する」。

3.東京高裁平成16年3月30日判決(控訴審)

◇本件各裁決の取消しを求める訴えの適否について
(1)行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条1項・2項・3項
(2)入国審査官による認定、特別審理官による判定、法務大臣による裁決
  入国審査官による認定:行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
  特別審理官による判定:行訴法3条3項の「裁決」に当たるもの
  法務大臣による裁決:行訴法3条3項の「裁決」に当たるもの
(3)行訴法3条3項の「裁決」
 「行訴法3条3項の『裁決』には、行政不服審査法で定めている審査請求及び再審査請求に対する『裁決』、異議申立てに対する『決定』のほか、他の法令で定める特別の不服申立てに対する応答行為も含まれるのであり、その応答行為が行訴法3条3項の「裁決」に該当するかどうかは、当該不服申立ての名称によって決まるものではなく、行政庁の処分その他公権力の行使に関し、相手方その他の利害関係人が提起した不服申立てに対して、行政庁が義務として審理判定した行為といえるかどうかという性質によって決まる」。
 「法49条1項が法48条7項の特別審理官の判定についての法務大臣に対する不服申立てについて、『異議の申出』という用語を用いているからといって、それが行政不服審査法にいう異議申立て、審査請求又は再審査請求と性質を異にするものであり、それに対する応答行為が行訴法3条3項の裁決に当たらないということはできない」。
 「在留特別許可について申請権が認められていないからといって、法49条1項の異議の申出が行訴法3条3項の『審査請求、異議の申立てその他の不服申立て』に当たらないということはできず、したがって、それに対する法務大臣の裁決が同項の裁決に当たらないということはできない」。
 「一般に、裁決書が作成されなければ行訴法3条3項の裁決に当たらないということはできず、このことから、法49条3項の法務大臣の裁決が行訴法3条3項の裁決に当たらないということはできない」。
(4)法49条3項の法務大臣の裁決
 「法49条3項の法務大臣の裁決は、行訴法3条3項の裁決に当たり、取消訴訟の対象となる」。
◇本件各裁決の適法性について
(1)在留特別許可を付与しなかった控訴人法務大臣の判断の適否について
①在留特別許可に関する法務大臣の裁量権について
 「外国人には我が国における在留を要求する権利が当然にはあるわけではないこと、法50条1項3号は、『特別に在留を許可すべき事情があると認めるとき』と規定するだけであって、法には、同号に該当するものとして在留特別許可を付与すべきかどうかを判断するに当たって、必ず考慮しなければならない事項など上記の判断を覊束するような定めは何ら規定されておらず、このことと、上記の判断の対象となる容疑者は、既に法24号各号に規定する退去強制事由に該当し、本来的には我が国から退去を強制されるべき地位にあること、外国人の出入国管理は、国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持を目的として行われるものであって、このような国益の保護の判断については、広く情報を収集し、その分析の上に立って、時宜に応じた的確な判断を行うことが必要であり、ときに高度な政治的な判断を要求される場合もあり得ることを併せて勘案すれば、上記在留特別許可をすべきか否かの判断は、法務大臣の極めて広範な裁量にゆだねられている」。
 「上記裁量の範囲は、在留期間更新の場合と比べて、より広範なものである」。
②本件における控訴人法務大臣の裁量権の逸脱又は濫用について
ア)帰国した場合の被控訴人らの不利益について
 「自己責任の問題であり、我が国に解決を求める筋合いのものではない」。
イ)帰国による被控訴人長女及び同二女への影響について
 「いまだ可塑性に富む年齢」であり、「イランの生活、社会、文化等に順応することが著しく困難であるとは認められない」。
ウ)長期間平穏かつ公然に在留したことの評価について
 「被控訴人夫及び同妻が残留期限を超えて我が国に滞在し、不法就労を行ったことは、いずれも計画的な行動であった」。
 「不法残留者による不法就労は、このような制度の根幹に係わる重大な問題であり、公正な出入国管理の秩序を乱すものというべきであって、被控訴人らに在留特別許可を認めないことによって保護すべき利益が現に存することは明らかというべきである」。
 「在留特別許可を付与すべきかどうかの判断において、それらの事情を被控訴人らに有利に考慮すべきであるとはいえず、そのような考慮をしないで、同被控訴人らをイランに帰国させることが、社会通念上著しく妥当性を欠くということはできない」。
エ)被控訴人らの居住の自由を侵害するとの点について→外国人在留制度の枠内
 最高裁昭和53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁
オ)児童の権利に関する条約に違反するとの点について→外国人在留制度の枠内
 児童の権利に関する条約9条4項、同3条1項
カ)公平原則違反の主張について
 「在留特別許可を付与するかどうかは、諸般の事情を総合的に考慮した上で個別的に決定されるべきものであり、単に在留特別許可を付与された家族の構成が類似しているとの一事をもって、被控訴人らにこれを付与しないことが公平に反するということはできない」。
(2)小括
 「被控訴人らの控訴人法務大臣に対する本件各裁決の取消請求は、理由がない」。
◇本件各退令発付処分の適否について
(1)違法性の承継について
(2)主任審査官の裁量権の存否について
 入管法49条4項・5項の規定により、「主任審査官には裁量の余地がない」。
 入管法24条は、「特定の行政庁の具体的な権限を規定したものではないから、同条を根拠として、主任審査官が退去強制令書発付について裁量権を有するということはできない」。
 「行政便宜主義は、行政庁が法令上与えられた権限を行使するかしないかが行政庁の裁量にゆだねられている場合に、行政庁が与えられた権限を行使しないからといって直ちに違法にならないとの原則をいうものにすぎないから、これをもって、行政庁に法令上与えられた権限が行政庁の裁量にゆだねられているかどうかの根拠となしうるものではない」。
 退去強制令書発付について、主任審査官に対し行政便宜主義は適用されない。
(3)小括
 「退去強制令書の発付について主任審査官に裁量権を認める余地はないというべきであるから、その裁量があることを前提として比例原則の違反をいう被控訴人らの主張は、その前提を欠き、理由がない」。
 「本件各裁決が適法である以上、被控訴人らの控訴人主任審査官に対する本件退令発付処分の取消請求は理由がない」。
◇結論
 「原判決は失当であり、これを取り消して、被控訴人らの控訴人らに対する請求をいずれも棄却する」。

【引用資料】

・東京地裁平成15年9月19日判決(『判例時報1836号』46頁)
・東京高裁平成16年3月30日判決(『訟務月報51巻2号』511頁)

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