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出入国管理に係る行政裁量

1.行政裁量の意義

(1)行政裁量とは
 行政裁量とは、立法者が法律の枠内で行政機関に認めた判断の余地です。一方、行政行為の全てについて行政庁に裁量が認められているわけではなく、裁量の認められない覊束処分もあります。
 行政庁の裁量処分について、行政事件訴訟法30条には、「裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」とあります。しかし、当該行政庁の処分が裁量の範囲内であれば、当不当の問題を生ずるにとどまり、違法の問題は生ずることなく、裁判所は当該処分の妥当性について介入できません。
(2)行政行為が認められることの意味
 行政裁量が認められるということは、訴訟になった場合、裁判所の判断よりも行政庁の判断を優先させると立法者が定めたことを意味します。出入国管理に係る行政裁量については、政治的・専門的な判断の尊重の必要性から、裁判所の判断よりも行政庁の判断を優先させます。
 マクリーン事件判決(最高裁大法廷1978年10月4日判決)では、以下の通りに判示しています。「法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしゃくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができない」。

2.行政裁量の認められる判断過程

(1)要件裁量
 ①どのような事実があったのかの認定、②当該事実が処分の理由になるかについての判断、という2つの要件該当性の判断に行政裁量を認める場合、これを要件裁量といいます。前掲のマクリーン事件判決は、外国人の在留期間の更新の要件認定の部分(特に、②の事実に対する評価)について、法務大臣の裁量を認めています。
(2)効果裁量
 ③処分をするか否かについて行政裁量を認める場合、これを行為裁量といいます。そして、④処分をする場合にいかなる処分を選択するかについて行政裁量を認める場合、これを選択裁量といいます。行為裁量と選択裁量を併せて効果裁量といいます。

3.裁量権の限界と司法審査

(1)裁量権の踰越濫用(裁量濫用型審査)
 裁量権の踰越とは、法の許容する範囲を裁量の範囲を逸脱することを意味し、裁量権の濫用とは、表面的には法の許容する範囲内であるものの法の趣旨に反して裁量権を行使することを意味します。裁判例は、両者を一括して、裁量権の限界の問題として論じています。裁量権の踰越濫用になる場合として、法律の目的違反不正な動機平等原則違反比例原則違反等が挙げられます。
(2)実体的判断過程統制審査
 裁量濫用型審査の対極として位置づけられるのが、実体的判断代置方式審査です。これは、裁判所が全面的に審査し直し、その結果と行政庁の判断が一致しない場合には、裁判所の判断を優先して行政行為を取り消す方式です。
 また、両者の中間に位置づけられる司法審査方式として、実体的判断過程統制審査があります。 これは、裁判所が第三者的な立場から行政庁の判断過程の合理性を審査する方式であり、日光太郎杉事件判決(東京高裁1973年7月13日判決)や二風谷ダム事件判決(札幌地裁1997年3月27日判決)が示した裁量統制手法です。
 最も重視すべき諸要素は何か、それらが軽視されていないか、他事考慮となる事項は何か、当該事項が考慮されたか、本来過大に評価すべきでない事項は何か、それらが過大評価されたか否かについては、裁判所が審査しうるという前提に立っています。これらの判決は、実体面に踏み込んで行政庁の判断過程を統制する注目すべき手法をとっています。

4.マクリーン事件上告審判決(最高裁大法廷1978年10月4日判決)

(1)本件の事案
◇アメリカ合衆国国籍をもつX(原告・被控訴人・上告人)は昭和44年5月10日、出入国管理令に基づく在留期間1年の上陸許可の証印を受けて本邦に入国しました。Xはその後、Y(法務大臣―被告・控訴人・被上告人)に対し1年間の在留期間の更新を申請しましたが、Yは出国準備期間として120日間の在留期間更新の許可をしました。
◇Xは当該期間経過日前に1年間の在留期間の再更新を申請したところ、YはXに対し更新を不許可とする処分をしました。この不許可処分(以下「本件処分」)の理由は、Xの入国管理局への無届転職及び本邦における政治活動(ベトナム反戦等を目的とする集会や集団示威行進への参加等)でした。Xは本件処分の取消を求めて出訴しました。
◇第1審判決(東京地判昭和48・3・27行集24巻3号187頁)は、本件処分についてYの裁量を広く認めながらも、Xの無届転職及び政治活動の実体は在留期間更新を拒否すべき事由に当たらず、本件処分は裁量の範囲を逸脱する処分であるとしてこれを取り消しました。
◇第2審判決(東京高判昭和50・9・25行集26巻9号1055頁)は、無届転職を理由とする点については「いささか問題であろう」としつつも、政治活動については、Xの活動は外国人に許される表現の自由の範囲内であるものであり、それ自体で退去強制事由を構成するものとはいえないが、在留期間更新申請の際にYがこれを高度の政治的配慮のもとに消極的資料として取り上げたとしてもやむをえず、Xの「個々の行動が、具体的にわが国の国益をそこなうような実害を発生せしめるものではないとか、また、そのようなおそれがないからといってすでに法務大臣がその高度の政治的判断によりわが国及び国民の利益に適しないとする以上、それがなんぴとの目からも妥当としえないことが明白であるとすべき事情のない本件では、右裁量を非難するのは相当でない」として第1審判決を取り消しました。
◇Xは上告しました。
(2)本判決の判旨と留意点
 上告は棄却されました。
①外国人の、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利の保障
 「憲法22条1項は、日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり、外国人がわが国に入国することについてなんら規定していないものであり、このことは、国際慣習法上、国家は外国人を受け入れる義務を負うものではなく、特別の条約がない限り、外国人を自国内に受け入れるかどうか、また、これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを、当該国家が自由に決定することができるものとされていることと、その考えを同じくするものと解される。したがって、憲法上、外国人は、わが国に入国する自由を保障されているものではないことはもちろん、所論のように在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではないと解すべきである」。
*特別の条約とは、伝統的に、通商航海条約や日韓法的地位協定など出入国に直接関わる条約を意味します。ただし、人権諸条約のように、ある一定の出入国管理上の行政行為が当該条約に違反する行為になる場合があります。 人権諸条約の一定の条項に違反する結果が生じれば、退去強制をすることができない可能性があります。
*人権諸条約:国家の枠組みを越えた人権保障の国際化
・1979年自由権規約・社会権規約 ・1981年難民条約 ・1994年子どもの権利条約、
・1995年人種差別撤廃条約 ・1999年拷問等禁止条約
②出入国管理令21条3項に基づく在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断と法務大臣の裁量権
 「出入国管理令が原則として一定の期間を限って外国人のわが国への上陸及び在留を許しその期間の更新は法務大臣がこれを適当と認めるに足りる相当の理由があると判断した場合に限り許可することとしているのは、法務大臣に一定の期間ごとに当該外国人の在留中の状況、在留の必要性・相当性等を審査して在留の許否を決定させようとする趣旨に出たものであり、そして、在留期間の更新事由が概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広汎なものとする趣旨からであると解される」。
 「法務大臣は、在留期間の更新の許否を決するにあたっては、外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲など諸般の事情をしんしゃくし、時宜に応じた的確な判断をしなければならないのであるが、このような判断は、事柄の性質上、出入国管理行政の責任を負う法務大臣の裁量に任せるのでなければとうてい適切な結果を期待することができないものと考えられる」。
③裁量権行使の準則
 「行政庁がその裁量に任された事項について裁量権行使の準則を定めることがあっても、このような準則は、本来、行政庁の処分の妥当性を確保するためのものなのであるから、処分が右準則に違背して行われたとしても、原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない。処分が違法となるのは、それが法の認める裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限られるのであり、また、その場合に限り裁判所は当該処分を取り消すことができるものであって、行政事件訴訟法30条の規定はこの理を明らかにしたものにほかならない」。
④21条3項に基づく法務大臣の在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由の有無の判断に対する裁判所の審査
→「最小限の実体法的審査―裁量権の踰越濫用型審査」
 「裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理、判断するにあたっては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができるものと解するのが、相当である」。
*「最小限の実体法的審査―裁量権の踰越濫用型審査」⇔「判断代置型審査」、「中間密度型の実体法的審査」
 「裁量権の踰越濫用型審査は、一面では、自由裁量の幅が最大化する場合も含めたすべての行政活動に対し、①権限行使が著しい事実誤認に基づいて行われてはならず、また、②処分内容等権限行使の結果が社会観念上著しく妥当性を欠くものであってはならない、という制約を課しており、その限りでは、最小限の適法性審査を保障する ものである」。「問題は、かかる最小限の適法性審査しか及び得ない行政活動が、判例の支配的傾向 では、余りにも広く容認されているのではないかという点にある」。(亘理格「行政裁量の法的統制」『行政法の争点〔第3版〕』117頁)
*社会通念とは「実証不能な概念であり、裁量判断の適法・違法を画す法的基準たりえないのではないか。・・・法務大臣の裁量が最大化される危惧がある」。(三浦大介「在留期間の更新と裁量審査」『別冊ジュリスト(№181)149頁』
*「『事実に対する評価が明白に合理性を欠くかどうか』、『社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうか』についての評価をするにあたり、憲法や条約等の趣旨を判断基準として取り入れることを忘れるべきではなく」(泉徳治「マクリーン事件最高裁判決の枠組みの再考」『自由と正義 2011年2月号』20頁)
⑤外国人の政治活動の自由と憲法の保障
 「憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり、政治活動の自由についても、わが国の政治的意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き、その保障が及ぶものと解するのが、相当である」。
⑥外国人に対する憲法の基本的人権の保障と在留の許否を決する国の裁量
 「外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではなく、ただ、出入国管理令上法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足りる相当の理由があると判断する場合に限り在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているにすぎないものであり、したがって、外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、右のような外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当であって、在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保障、すなわち、在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。在留中の外国人の行為が合憲合法な場合でも、法務大臣がその行為を当不当の面から日本国にとって好ましいものとはいえないと評価し、また、右行為から将来当該外国人が日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者であると推認することは、右行為が上記のような意味において憲法の保障を受けるものであるからといってなんら妨げられるものではない」。
*法務大臣の広汎な裁量権の容認
 本件処分時の社会状況:ベトナム反戦運動・70年安保闘争の激化、裁量統制手法が定着していなかった時代
→「今後同種の事例において、判断過程の統制等、より審査密度の濃い裁量統制の可能性が否定せれるわけでない」。
(三浦大介「在留期間の更新と裁量審査」『別冊ジュリスト(№181)149頁』
⑦外国人の在留期間中の政治活動をしんしゃくし在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないとして更新を不許可とした法務大臣の処分に対する最高裁の判断
 「上告人の在留期間中のいわゆる政治活動は、その行動の態様などからみて直ちに憲法の保障が及ばない政治活動であるとはいえない。しかしながら、上告人の右活動のなかには、わが国の出入国管理政策に対する非難行動、あるいはアメリカ合衆国の極東政策ひいては日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に対する抗議行動のようにわが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものも含まれており、被上告人が、当時の内外の情勢にかんがみ、上告人の右活動を日本国にとって好ましいものではないと評価し、また、上告人の右活動から同人を将来日本国の利益を害する行為を行うおそれがある者と認めて、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断したとしても、その事実の評価が明白に合理性を欠き、その判断が社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかであるとはいえず、他に被上告人の判断につき裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったことをうかがわせるに足りる事情の存在が確定されていない本件においては、被上告人の本件処分を違法であると判断することはできないものといわなければならない」。
*マクリーン判決自体が露呈している問題点
■無届転職の点
「この転職の事実は、上記入国目的を実質的に変更するものではなく、在留期間更新の許否を判断する際に考慮すべき事項であるとは到底いえない」。
■政治活動の点
「一般に、表現の中身を制限するためには、重要な国益を守るためやむにやまれぬ場合でなければならないが、在留期間更新の不許可の場合、そこまでの厳格性が要求されるかどうかは別として、少なくとも、『憲法の保障が及ばない政治活動であるとはいえない』、すなわち憲法で保障された基本的人権である表現の自由の範囲内の政治的意見の表明である以上、在留期間更新の許否を判断する際のマイナス要素として考慮することを容認すべきではなかった。それを認めては、法務大臣は憲法の基本的人権の保障を無視してもよいということになる」。(泉徳治「マクリーン事件最高裁判決の枠組みの再考」『自由と正義 2011年2月号』20~21頁)
*比例原則の観点
「Xの平和的・合法的政治活動を捉えて不許可とした判断は、比例原則の観点からも妥当といえるだろうか、という批判はありえよう」。(三浦大介「在留期間の更新と裁量審査」『別冊ジュリスト(№181)149頁』

【引用文献】

・泉徳治「マクリーン事件最高裁判決の枠組みの再考」日本弁護士連合会『自由と正義 2011年2月号』19~26頁
・宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論 [第3版]』有斐閣、2009年、301~313頁
・岡田正則=古谷修一=渡辺彰悟「対談『マクリーン判決を乗り越える』―行政法・国際法の視点から見たマクリーン判決と退去強制処分取消訴訟―」早稲田大学大学院法務研究科臨床法学研究会『Law and practice 2号』、2008年、53~76頁
・『判例時報903号』3頁
・三浦大介「在留期間の更新と裁量審査」『別冊ジュリスト 行政判例百選Ⅰ [第5版]』有斐閣、2006年、148~149頁
・亘理格「行政裁量の法的統制」『行政法の争点〔第3版〕』有斐閣、2004年、116~119頁

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